第38章 息が止まるその時に(謙信様:誕生祝SS2025)
プラスチックのスプーンでおかゆをすくうと寒い部屋なので湯気がすごい。
フーフーと息を吹きかけてから口に入れるとお馴染みの味がした。1人暮らしで熱を出した時や二日酔いの時にいつもお世話になっていた味だ。
おかゆだけどこの時代で作るおかゆと違う。
お米も水も、梅干しも、根本から違うからだろう。
「おいしい…。あったかくて幸せ…」
感動している私の横で、手袋をはずした謙信様がカップめんと箸を持った。
幅があるけどペラペラの麺に、謙信様が『これがうどんなのか?』と不審そうにしていて、見ていて面白い。
謙信「これがかまぼこだと?何故こんなに小さく紙のように薄いんだ?
味は悪くないがこの揚げは甘い…。ネギは色だけで風味がしないぞ」
佐助「謙信様、出された料理に文句を言うと舞さんが奥さんになった時に、物凄く嫌がられますよ。
塵(ちり)も積もればで離縁される男性も居るんですから、気をつけないと」
謙信「なに、離縁だと?」
謙信様が麺を持ち上げた状態でピタリと止まった。何かを恐れてこちらを見てくるところが信じられないくらい可愛い。
「大丈夫ですよ!謙信様は私が作った料理に文句を言ったことないですから」
謙信「佐助、俺を驚かせた罰として、宿に着いたら叩き斬ってやる」
佐助「宿に着く直前にドロンしようかな…」
「え?だめだめ!
現代食パーティ—をしたいから帰らないで~。
それに佐助君がいなきゃできない余興もあるでしょ!」
佐助「そうだった。あれはぜひとも謙信様に披露したいな」
私達の会話を聞いて、謙信様があっさりと怒りを引っ込めて渋面を作った。
謙信「仕方ない。叩き斬るのは城に帰ってからにするか」
「良かった。ありがとうございます!」
佐助「いや、俺としては斬りかかれるのが少し遅くなっただけだ。
すっかり舞さんの尻に敷かれてるな…」
謙信「何か言ったか?」
佐助「いえ…」
「ふふ…」
2人の会話に笑いが止まらなかった。