第38章 息が止まるその時に(謙信様:誕生祝SS2025)
ビュオオオオォ…
上空で渦を巻いた寒風が、白い大地を凍えさせようと強く吹き付けてくる。
肌を切り裂く冷たい風と水気の多いぼたん雪が一緒になって、生命を根こそぎ奪うような悪天候の中、私と謙信様、そして佐助君の3人は雪の原で難儀していた。
30分前は青空が目に痛い綺麗な空だった。
しかし突然の暴風雪は謙信様の勇ましい愛馬が歩みを止めるほどで、私は謙信様にかばわれてもなお熱を奪われて震えていた。
謙信「大丈夫か。佐助が雪をしのげる場所を探しに行っている。
もう少しの辛抱だ」
「まさか…こんなに急に天気が…
悪くなるなんて、思いませんでしたね」
私達は謙信様の誕生日を温泉宿で過ごそうと、向かっている途中だった。
カチカチと歯の根が合わず、言ったことが伝わっただろうかと見れば、謙信様は鋭い眼差しを上空に向けていた。
謙信「俺や佐助の見立てでは晴れ間が続くはずだった。
山ならば急変もあり得るがいささか不自然だ」
とはいっても暴風雪は自然現象なのだから、巻き込まれたのは不運と思って受け入れるしかない。
「足手まといですよね。申し訳ありません」
謙信「っ、舞は足手まといではない!」
声を荒げて否定し、謙信様はごしごしと私の身体を摩擦している。
こんなことをさせちゃいけない、自分でやらなきゃと思うのに、凍えて口しか動かせない。
「途中で私が馬に酔ってしまったから…。
二人だけなら嵐が来る前に平野を抜けていたでしょう?」
謙信「馬酔いは最初から想定していたことだ。
謝るのはこの嵐を想定できなかった俺達だ」
「そんなこと………」
しゃべっている途中でフッと意識が遠のいた。
謙信「っ、しっかりしろ舞っ」
さっきからなんだか意識が浮いたり沈んだりして危ないという自覚はあった。
全身の筋肉がギュッと委縮した状態でガタガタと震えている。体温を上げるための本能的な震えも、この寒さではなしのつぶてだ。