第36章 姫の年越しシリーズ(2024年)・12月31日
運搬用の木箱に持てる分の洗い物を入れて外に出ると、キンと冷えた空気に身がキュッと縮まった。
空気も澄んでいて、人の熱気や湯気がこもっている厨とは大違いだ。
井戸の近くでは5,6人のグループが幾つかあり、下女たちが忙しそうに洗い物をしている。
これから使う祝い膳を拭き清めているグループや昼餉で出た洗い物をしているグループなど分かれて仕事をしているようだ。
その輪のうちの1つに歩み寄ると大歓迎された。
女1「まあまあ、舞様。こちらのお手伝いをしてくださるのですか?
次から次に洗い物が運ばれてきて大変なんです。助かります」
洗い桶の中には大ザルや大鍋、大皿など、料理を大量に作っているからこそ出る大物でいっぱいだ。
予洗い、洗い、すすぎ、仕上げ、運搬と流れ作業でこなしながら、女たちの口は余念なく動いている。
この間まで夏だと思っていたらもう年末だとか、城下で夜な夜な怪しい人影が目撃されているらしいとか、京や堺では高熱が出る風が流行っていて怖いなど、話題は次から次へと移っていく。
これが俗に言う井戸端会議かと、舞は耳を傾けながらザルの目に詰まっている野菜くずを指でつまんでいる。
女2「ところで舞様は、どなたがお好きなのですか」
「へっ!?私が誰を好きだって?」
女3「嫌ですよ、舞様。それを聞いているんじゃありませんか。
どなたかお好きな殿方はいらっしゃらないのですか?
先程は政宗様ととても仲睦まじくしていらっしゃったではないですか。私達は政宗様があのように笑うところを見たことがありません」
「そ、それは…」
女4「けれど昨日は信長様に大層かまわれていたとお聞きしますよ?
それに秀吉様も目に入れても痛くない程可愛がっておられるとか…」
「うーん、信長様の場合かまうっていうか少し違うような…」