第35章 姫の年越しシリーズ(2024年)・12月30日
————12月30日
冬囲いが済んだ安土城の庭では、城下の餅屋を呼びつけ大々的に餅つきが行われていた。
晴れ渡った冬空のした、ぺったんぺったんとリズミカルな音と、息の合った掛け声が見学する者の耳を楽しませる。
男「あいよ、次っ!」
もうもうと湯気を立てるふかしたてのもち米が運ばれ、臼にストンと入れられる。
餅屋の若い衆が汗を流して杵(きね)でつくと、もち米はみる間に餅になった。完成した餅には餅とり粉がふられて用途に応じて成形されていく。
餅つきの見物をしている武将達の元に舞がお盆を手に歩み寄った。
「大福を作らせてもらったんだけど難しかったよ。
見て、大福の下がどうしても綺麗にならないの。餅屋さんは板の上でしゅるしゅる~って大福を回すと綺麗になるのに私がやると全然だめだった」
政宗「見せてみろよ」
政宗はできたての大福をひっくり返し、歪な割れ目が残っているのを見て小さく笑った。
舞が真面目な顔でしゅるしゅる~とやっているのを想像すると、ありがたみがあるようなないような、である。
政宗「餡がはみ出ていないだけマシなんじゃないのか」
「そうだけどこんな不格好な大福、皆に振る舞うのは気が引けるよ。
責任もって私が食べるかな」
舞はうーんと唸っているが盆には8つの大福が乗っている。
秀吉「こら、そんなに食べたら腹を壊すだろう。
貸してみろ。舞が作ったんなら不格好でも愛嬌ってもんだ」
秀吉は盆を取りあげると座っている武将達に配りはじめた。さすが兄貴分といったところで『舞が作った大福だ。美味そうだろう』とフォローを忘れない。