第34章 呪いの器(三成君)
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三成が大名の元を訪れて半月がたった頃。
夜の闇をぬって三成の部屋に忍び込んできた男が1人。
客室でもある三成の部屋は安土の自室以上の散らかりようで、世話を焼く舞と秀吉が居ないため、こうなるまでに数日とかからなかった。
光秀は座れそうなスペースを見つけて座ると、おもむろに頬杖をついた。
からかうように細められた視線の先で、三成は達筆がふるわれた家康の文を読んでいる。
光秀「さて証拠も証人も出そろった。
さっさと解決して可愛い恋仲に顔を見せてやったらどうだ?」
三成「はい……」
光秀「……?」
彼らしからぬ悲痛の表情に光秀は何かあったのかと出方を待った。
三成「間に合わなかったな……」
小さな呟きは先程の光秀の問いに答えたわけではなく何かを嘆いてのものだった。
三成は私情を捨てるかのような溜息のあと、文机に置いてあった眼鏡をかけ表情を引き締めた。
三成「お待たせしました。簪の件は明日決着を着けましょう」
光秀「今夜じゃなくていいのか」
三成に悲壮な表情をさせる何かが起きているなら明日ではなく今夜がいいのではと提案したのだが、三成は首を振った。
明日を今夜にしたところで変わらないと絶望を振り払うような仕草だった。