第34章 呪いの器(三成君)
三成「千代姫様も北側のお部屋が好きとは奇遇です。私も大事な本が日焼けしないように安土でも北側のお部屋をいただいているんです。
今回もたくさん本を持ってきておりまして、あなたの御父上にお願いして北側の部屋をいただきました」
『北側が好き』ではなく『静かなのが好き』と言ったのだが、三成は嬉しそうな顔で北側の部屋を絶賛している。
寂れた北側の部屋を使っている姫を気づかって…ではなく本心で絶賛しているのがわかり、千代姫と女中は顔を見合わせクスクスと笑った。
千代姫「ふふっ、失礼いたしました。三成様のお人柄がとても良くて舞様はさぞ穏やかにお過ごしでしょうね。
舞様からお聞きしておりましたが三成様は読書熱心でいらっしゃるのね」
三成「ええ、熱中し過ぎて舞様に怒られる時もしばしばです。
ですが私の本好きもこうして千代姫様との再会に繋がったので幸いです。
あ、すっかり目的を忘れていました。舞様からこちらを預かって参りました」
三成から手作りのお守りを受け取った千代姫はもしやと目を輝かせた。
千代姫「もしかしてこれは舞様が作ったのですか?」
三成「ええ。お守りを寺院に持参して厄除けの祈祷もしてもらったそうです。
舞様と私も色違いで同じものを持っています。
舞様は桃色、姫様は朱色、私はこの色です」
三成の懐から薄紫のお守りが出てきて、千代姫は自分のものと見比べて感動しきっている。
千代姫「まぁ、嬉しい…!針子をなさっている舞様の品をいただけるなんて!
夜が明けましたらお礼の文をしたためますね」
三成「ええ、舞様も喜ぶと思います。
なにやら祈祷をしてくださった僧が迫力のある方だったそうで、『このお守りは絶対ご利益がありそうだよ!』とおっしゃっていました。
文でお話を聞いてみてくださいね」
千代姫「はい!わざわざ届けてくださって感謝いたします」
三成「私も舞様からのおつかいを無事に達成できてホッとしております」
しばし和やかな雰囲気で談笑したのち、夜も遅いからと三成は暇を告げた。