第13章 優しい君へお礼を籠めて1(2015/12/5 赤葦誕生日夢)
何度か深呼吸をしてから鞄を置いて紙袋だけを持って体育館へと駆け足で向かう。近付いていけば聞こえてくる練習の音。まだ赤葦以外の部員の人達と話せる自信はないけれど絶対に大丈夫。
体育館の閉まるドアの前で大きく深呼吸をしてからそっとドアを開けて優は言う。
「赤葦君、いますか?」
「橋本さん。おはようございます」
ほら、大丈夫。昨日までが嘘の様に話せた。きっとこれからも話せる。
この気持ちが何なのか分からないけれど、今は優しい君へ素直にお礼を言える自分がいればそれだけで。
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騒ぎたいだけ騒いで梟谷学園男子バレー部による赤葦誕生パーティーは終わりを告げた。
各々身支度を整えている中、朝と異なる姿をしてている赤葦に木兎は不思議そうに近寄りながらに尋ねた。
「あれ?赤葦お前マフラーどうしたんだ?朝付けてたじゃん」
早朝の寒さにマフラーは欠かせない、と口元まで覆って完全防寒していたのにそれが見当たらない。鞄の中に入っている様にも見えないしまさか教室に忘れたのか?と凍える外を見ながら木兎は首を傾げていた。
「ああ、マフラーですか。寒そうにしていたので貸してしまいました」
「貸した?誰に?」
興味津々に尋ねてくる木兎を見ながら、赤葦はふっと柔らかく笑いながらに優の事を思い出してみた。
指先まで真っ赤にしてコートも着ないで律儀にお礼をしようとしていた小さな少女。わたわたと慌てふためく姿は始業式の日と何一つ変わっていなかった。愛くるしい姿、とはあの様な姿を指すのだろう、と。
「愛くるしい子に、ですかね」
赤葦がさらっと口にした言葉に、木兎はこれ以上ない位に口を開いてからがしっと肩を掴み揺らしながらに尋ね問う。