第2章 *宮侑夢 罰ゲームにキス
勿論、名前で呼ばれたいのも本音だが、彼女である柚杏ともっと恋人としてのスキンシップを侑はしたかったのだ。
「……んっ……ん……」
角度を変え、逃げようとする柚杏の舌を逃がさないと絡めとってディープなキスを堪能した。
舌を解放し、唇を離すと互いの唾液が糸を引き、酸素を求めて柚杏の呼吸は荒くなっていた。
キスでこんな顔をしてくれるとずっと見ていたいと思うのが、彼氏の本音だ。
「柚杏、まだ名前で呼んでくれへんのか?」
コツン、と額と額を合わせると潤んだ瞳の柚杏がゆっくりと言葉を発した。
「……み…………侑く、ん……」
「ちゃんって呼べるやん。これからは名前で呼んでぇな」
「う、うん………侑くん」
この様子だと、またすぐに苗字に戻るのは目に見えるが、今日はこれで満足しようと侑は思った。
そして、一つの事も思った。
「ふーかざわちゃん」
両手を広げながら柚杏の苗字を呼ぶ。
侑の意図が分かっていない柚杏に、唇を突き出してアピールしていると、分かったらしく、再び柚杏の顔が真っ赤になった。
「ほらほら、罰ゲームしてや」
「~~~~っ!」
バチン、と廊下に叩く音が響き渡ったのだった。
◆
「ツム、何やその紅葉痕」
部活の準備運動中、侑の右頬にくっきりと浮かぶ手形に治は引き気味の呆れ顔で尋ねた。
「愛の形やな~サム羨ましいーやろ?」
「さらさら、ただのアホやん」
スパッと切り捨てる治に侑は噛み付く様に言った。
「彼女がおらへん男の僻みは嫌やなぁ~」
「彼女に平手打ち食らう様な奴に僻む点がへん」
「負け惜しみしとるだけやろ」
「してへん」
ギャーギャーと喧嘩を始める二人に、ゆっくりと近付いてきた北が口を開く。
「侑?治?」
「「 すんまへんでした 」」
流石双子と言わんばかりの息ぴったりの返事を聞きながら北は言う。
「侑は変な事して深澤の事を困らせへん。マネージャー不在やって部が困るの分かっとるやな?」
「…………はい、調子乗ったんや」
「分かればええ」
離れていく北の背中を見ながら、柚杏にする罰ゲームも程々にしようと、体育館の入口に隠れている姿を見ながら侑は反省をした。
(2021,4,15 飛原櫻)