第8章 宮治夢 雨降って地固まる
「治君、いてはるか?」
数日後の放課後、伝えられていた治の教室にひょこっと顔を出してクラスの人に尋ねた。
「治ー!お客さん来てる」
呼ばれて振り返った治と目が合うと、すぐに駆け寄ってきてくれた。
「先輩、そっちのクラスまで俺が行ったのに」
「HRが思たよりも早う終わってや、そやさかいいけるで」
笑顔で手を振りながら答えると、ぬっと背後に人の気配を感じ振り返る。
そこには治そっくりの少年が一人。
「サム何処に行く?ちゅーかこの人誰?」
「ツム何処行ってもええやろ。後先輩やから」
ツム、と呼ばれた少年はジロジロ見てきたと思うと、得意げな顔で言うのだった。
「サムが年上好きやとは思わへんかった」
「先輩なだけやし、歳下好きに言われたない」
「たまたま歳下やっただけや」
「せやったら先輩もたまたまや」
バチバチと睨み合う二人に板挟みされ、どうすればいいのか分からず、かと言って学年が違うので知り合いもいない。
詰んだ状態でいると、ツムは得意げに言うのだ。
「まぁ、どっからどう見ても俺の柚杏の方が可愛い」
「はぁ?んなのどう見ても先輩の方が可愛いやろう」
「はいっ?」
兄弟喧嘩の内容についていけなくなっていると、治は肩を抱きながらに言った。
「ツムに付き合うてるとあほが移るわ」
「はぁ?そらこっちの台詞や」
バチバチ火花を飛ばすので焦っていると、少し離れた所から呼ぶ声が聞こえた。
「み…………侑君」
「柚杏〜来てくれたのかっ?」
ツムこと侑は少し離れた位置にいる女の子の所に、上機嫌で掛けて行ってしまった。
なんだったのだろう、と思って置いていかれていると治が言った。
「先輩、アイツあほなんで忘れてもろて構わへん」
「は……はぁ…………」
取り敢えずその場は頷くしかないと思いながら、甘味処へ向かう事にした。
治の目的はこの間の練り切りらしい。
やっぱり、白狐を諦めきれていないらしく、作られないかと期待しているそうだ。
「そないに楽しみにしてもらえると、紹介する身としても嬉しいな」
「俺、ようよう考えると甘味やら初めて行くかも」
「えらい素敵な所やさかい、気に入ってくれたら嬉しいな」
雑談しながら、楽しい気持ちで歩いていく。
あの出会った日とは違って濡れていない地面を歩きながら。
(2021,5,2 飛原櫻)