【夢小説】バレー馬鹿は恋愛下手にも程がある【HQ/影山飛雄】
第8章 六話 開放されたのだが
影山みたいなアウトドアタイプは、インドアのオタクと住む世界も違うのだから。
「さっさとお風呂入ろ……」
ポツリと呟いてから、全てを忘れる様に朔夜はやっと風呂場へと入るのだった。
◆
「…………」
髪の毛を乾かしつつも、ボーッとして頭が働かない。
無論その理由は基本引きこもりの趣味昼寝の人間が、スポーツ観戦等激しい空間に居たからである。
でも、それ以外の理由がないと言ったら嘘になる。
満員電車の中で守られるかの様に影山に抱きしめられていた。
電車の揺れる音とは違う、鼓動の音。
筋肉質の胸板は硬かったし、ボールを素手で扱う競技の所為なのか、腕も太かった。
汗臭いと言っていたが、不快感を感じる程の臭さではなかったし、体臭がキツい、と言う事も実はなかったのだ。
(スポーツマンって汗臭いイメージだったんだけどなぁ……)
影山は高身長で体格が良いし、一般論からしたら……美形に部類されるだろう。
キメている私服ではなかったけれど、ダサい見た目でもなかったし、黙って立っていれば逆ナンされて当然の男だった。
そんな奴と一緒にいた所か、心を掴んでいるのが自分。
「…………ヌン!」
そこまで思考を巡らせていた所で正気に戻ったので、朔夜は自分の右頬を思いっきり殴った。
ズキズキと痛む右頬に頭が冴えてきた。
無意識に影山の事を考えていた事に嫌悪感を感じたのだ。朔夜にとって影山は迷惑極まりない、変人男なのだから。
「…………」
髪の毛は乾いてしまったと、ドライヤーの電源を切り、深く溜息を付いてから深呼吸へと変えて落ち着かせようとした。
(影山(アレ)は変人……影山(アレ)は変態……)
頭の中で呪文の様に執拗い位に繰り返してみたら、気持ちが落ち着いてきた。
中途半端に意識しかけていたのは、やっぱり満員電車で苦しい思いをしたからなのだと朔夜は安堵した。
気持ちを落ち着かせたら途端に襲ってくる睡魔。
ドライヤーを洗面台に片付けに行かなきゃいけないのは分かっているが、睡魔には勝てない。
ぽすん、とベッドへ倒れ込みウトウトと船を漕ぎ出してしまう。
もう面倒だし、このまま寝てしまおうかと睡魔に素直に従って目を閉じた。