【夢小説】バレー馬鹿は恋愛下手にも程がある【HQ/影山飛雄】
第5章 三話 雰囲気だけで乗り切れ
が、朔夜の訴えを分かっていないのか、牛島は無表情に近い顔のまま、グッと親指を立てるのだった。
(全然伝わってなーい!)
声にしたい叫びだったけれど、声にする事など出来ないので、朔夜は心の中で叫びながら膝の上にあるサインボールを握りしめるのだった。
◆
訳の分からないまま試合は終わりを告げた。
なんとか周りの雰囲気に合わせて、試合観戦を乗り切る事が出来たが、会場の熱気も合わさりぐったりと疲れてしまった。
気持ち的にはコミケに始発から参加した後の疲れだ。
「……さて、帰ろうかな」
要望である『試合観戦』は無事に終わったのだ。それならばもう帰宅しても問題ない筈。
スマホで時間を確認しつつ、帰りにアニメイトにでも寄ろうかと考えていた所、背後から痛い位の慣れかけている視線を感じ、慌てて振り返った。
関係者以外立ち入り禁止の区画で、影山がこちらの事をだまーって見ていた。
(これ無断で帰ったら駄目なヤツだ……)
ゲンナリとしつつ、周りに気が付かれない様に向かっていく。
来るのが分かった途端、眉間に皺が寄っていた影山の表情がぱぁっと明るくなるのを、朔夜は見逃さなかった。
はぁ、と溜息を付きながら関係者用通路まで入るとすぐに影山が駆け寄ってきて言う。
「田中さんっ!試合観てくれましたかっ!」
「……最前だから嫌でも観てるわい」
「今日の試合も勝てました!」
「……オメデト?」
「はいっ!」
少年の様に喜ぶ表情に、朔夜はじーっと見上げてしまった。
プロのスポーツマンだし、高身長なので忘れそうになっていたが、目の前の男は自分と同じ歳のまだ未成年の青年なのだ。
(こんな風に笑う程、バレー好きなんだ……)
整った容姿をしているので、やっぱり格好良く見える。見えるのだが……。
(これが二次元だったらなぁ……)
オタク思考がどうしても抜き切れず、目の前の相手は現実の男だもんなぁ、と朔夜は思ってしまっていた。
残念なオタク思考である。
「……ん?」
ふと、影山が両腕を広げているので何だ?と首を傾げると、唐突に真顔で言ってきたのだ。
「抱きしめても良いですかっ !? 」
「駄目に決まってるだろうが!」
「試合勝ちました!」
「んな約束はしてない!つか汗臭いわ!」