第1章 祝い
「食べなくていいのか?」
「うん、ジャンが食べてよ。」
壁内は変わらず食糧難だ。
ケーキなんて贅沢品、誕生日でもなかなか食べられない。
「いいよ、ジャン食べて。」
ジャンは小さなケーキにフォークを立てる。
「ん。」
ジャンはケーキの乗ったフォークをフィンに差し出す。
「え、ほんとにいらないよ。
せっかくだからジャン食べてよ。」
フィンは両手を上げてジャンの差し出したフォークを拒否する。
「フィンが食わないと俺も一口も食べないからな‥‥
あとそれとなんだ‥…
オムライスも俺がほとんど食べちまったからな‥…」
ジャンは照れながらしどろもどろに話す。
そんな照れ臭そうに話すジャンが私はいつも大好きだ。
可愛くてフィンはつい吹き出す。
「おまッ‥‥なんだよ…」
「ううん、なんでもない。
いただきます。」
差し出されたケーキを一口食べる。
「すっごくおいしいよ!!
ほらジャン、ちゃんと食べて!!」
フィンは笑いながらジャンにケーキを勧める。
「じゃぁ…いただきます。」
ジャンもケーキを食べる。
ジャンの顔色が一気に明るくなった。
「ほんとだ!!すんげぇうまい!!」
喜びを表現するジャン。
どこまでも可愛い。
嬉しそうにケーキを食べるジャンをフィンは微笑みながら見守った。
ケーキを食べ終わるころ、辺りは夕立に包まれる。
ピンク色の桜の木はオレンジとピンクが混ざったような情熱を帯びた桃色になる。
「‥‥‥」
今、ここでジャンへの想いを伝えてもいいかもしれない。
桜はフィンの背中を押すように舞い散った。