第2章 プロローグ
魔王城ーーーー
夜も更けた魔王城に忍び込む小さい影が、城の壁に写し出される。息を潜めているのは、先程から近付く足音のせいである
『……………っ』
カツン、カツンとまるでこちらの居場所が分かっているように近付いてくる足音。もう撒くことは出来ないと直感がそう告げた
『、魔王クロム!貴様の命をいただく!!』
足音が止まったと同時に角から飛び出し、魔王に切りかかる。いや、切りかかったはずだった…
「ふむ…こんな夜更けに迷子の稚子がいるとはな」
そんな声が頭上からするかと思ったら、意図も簡単に地に伏せられ背中に乗られていた
『な………っ』
「そう動くな、そして勇者の真似事も程々にしろ。お前のような稚子、命を取るなど一瞬ぞ」
冷ややかで、鋭く刺すような声だった。周りの空気が一気に冷え、凍ってしまうような錯覚に陥った
『真似事じゃない…っ!僕は、ユリウス・アーガノイスト、貴様の命を取りに来た!』
「アーガノイスト……ふむ、勇者の血族か。ならば消すのは惜しいな」
何故か身体が震え始め、手から剣が落ちた。ガタンっと言う音と共に、大きな手で目を隠された
『ぁ………、ゃっ』
「落ち着け、すぐに終わる」
ガタガタと震え、目からボロボロと涙が溢れてくる
『ゃめて……ゃ、だっ…、兄様っ』
「………はぁ、なんだこれは。勇者の血族がこんなことを…」
『……ぅっ、兄様ぁっ…た、すけて…ぇ』
そうこぼすと目を塞いでいた手が離された
「生憎だが、年端もいかん稚子をいたぶる趣味はない」
『ぅ、ぇっ……ぁっ、』
「勇者よ、選べ。今すぐにお前の血族の元へ帰るか……そうだな、ここに住むか。二つにひとつだ」
魔王はそう言って口元に手を当て、小さく首をかしげた
『い……ぇ、ゃだっ…ぃたいのは、やだっ!』
「ならば、ここに住むとよい。ここにはあのような悪趣味な魔物はおらんぞ」
『………ぁ、だめっ…兄様が、一人になっちゃう』
「……お前の兄が心配か?確かに、良い扱いは受けておらなんだな。ふむ、では取引に応じよう」
『と、り……ひき?』
「お前が先程の二択のどちらかを受け入れるならば、お前の兄の安全を保証しよう。何、加護のようなものだ」
『……兄様のお身体に、何もない…のかっ』
「あぁ、保証する」