第6章 偽の彼女
だけどしばらくしても悟はななかな戻ってこなくて。辺りを見渡すけれど姿はない。
「悟来ないね、見てくるよ。ご飯もきちゃうし」
「うん、よろしくー」
硝子に手を振られ、持っていた携帯をテーブルに置いて立ち上がった。
トイレの方面へと行くと、その目の前の廊下で人影が見える。あ、悟いた。それは背の高い悟の背中で。「…さとっ」と名前を呼ぼうとして私は言葉を止めた。
悟の目の前には二人の可愛い女の子がいたからだ。その女の子の一人は悟の腕に自分の腕を絡め甘い口調で話しかけている。
そんな女の子に悟は特に反応をする事もなく。ただ無表情のまま彼女を見下ろしていた。ヤバイ…もしかしてあの顔、悟キレそう?
そう思った瞬間、早足で歩き出し瞬時に女の子が腕を絡めている悟の手をグイッと後ろから引っ張った。
私はまぁ普通の女の子とは違い、体術や剣術が出来るだけあってもちろん多少は力が強い。しかも少し強めに力を込めた事もあり、女の子は「きゃっ」とよろめき、悟は後ろへと振り返った。
「私の彼氏に何か御用ですか?」
悟の腕をぎゅっと握りしめて身体をピッタリとくっ付け、彼女達を見つめる。
そんな私のいきなりの行動に、無表情だった悟は驚いたように目を見開く。まるで「お前、どうした?」とでも言わんばかりの表情だ。
悟がこんな所でキレたら大変だ。シャレにならない。だからこの方法が一番穏便でなわけで。先ほどの悟が作った設定を私も使う事にしたわけだ。
「悟は私のなので、諦めて下さい。ごめんなさい」
私はもう一度悟の腕を引き寄せると、いきなり登場した私に唖然としている彼女達に背を向けて歩き出した。