第33章 ただ君だけを愛してる
「悟…お願い…聞いて…」
「聞きたくない」
「ねぇ…お願い…」
「……リン…愛してるよ。この世の全てを犠牲にしてでも、ただ君だけを愛してる」
握りしめている手にキスを落としながらそう呟く悟の声は、聞いた事もないほど弱々しく今にも壊れてしまいそうだ。
いつも美しい碧色の瞳を曇らせているのは間違いなく私だ…私の軽率な行いのせいだ。彼を不安にさせた、彼を悲しませた。こんなにも苦しい言葉を言わせてしまった。だけどこれだけは信じて欲しい…絶対に約束すると誓うから…
「悟…私も愛してるよ、だから大丈夫。安心して、私もこの子も…2人で悟が帰って来るのを待ってるから、この子は絶対に私が守ってみせるから」
「……リン…」
「だって私は呪術界最強の男の奥さんだよ…?そしてこの子はそんな悟の遺伝子を持った赤ちゃんなんだから」
私は握りしめていた悟の手を自分のお腹へとそっと持って行くと、目尻を下げて微笑んだ。
「きっと悟に似て綺麗な白髪の髪をした可愛い子が産まれてくるよ。楽しみだなぁ…悟…いつも怪我ばかりしてごめんね…約束も破ってごめん…だけど信じて欲しい、私とこの子のことを」
「………っ」
「たくさんの人達が悟を待ってる、悟の助けを待ってる」
この人を私1人だけが独り占めするなんて事は出来ない。そんな贅沢な事出来ない。だって彼は世界をも救える力を持っているのだから。
そして…何よりも…
「傑もその1人だよ…悟…傑を止めて…」
その言葉を告げた瞬間、少しだけピクリと反応した悟の瞼。
今までこの件に関して、ここまで直接的な事を言った事はなかった。悟に自分の気持ちを押し付けたくなかったからだ、悟だけに託すのは本当は間違いだと何処かでそう思っていたからだ。
だからずっと黙ってきた。傑を止めるのは自分の役目だという悟の言葉に、一度だって返事をしたことなんて無かった。