第33章 ただ君だけを愛してる
あぁ…私…前にもこんな悟の姿を見た事がある。
高専二年の時だ。悟が初めて私へ反転術式を使って治してくれた時…入院先のベッドで目覚めた時だ。
確かあの時も…私は悟にこんな顔をさせてしまっていた。
不安そうに眉を歪ませ、今にも泣き出しそうなほど深い瞳の色をさせた悟は、力の入らない私の手を強く握りしめてくれる。
「大丈夫だよ、赤ちゃんは生きてる。だから今はとにかく休んで」
「そっか…良かった…」
「僕もそばに居るから安心して良いよ」
その悟の言葉に、ほっと安心したようにして細く微笑めば…ちょうど後ろの方から「硝子さん!!重傷者です!!来てください!!」と見知った補助監督の声が聞こえてくる。
そして虚だった私の思考が少しずつ本来の物へと戻って行く。
そうだ…今東京と京都では百鬼夜行が起きているんだと。先ほどからブーブーっとスマホが震える音もしてくる。きっと悟のスマホからだ。
私は力が入らず震える唇を微かに開くと私を見下ろす悟へと視線を移した。
「…悟、行って…」
「は?何言ってんの?」
「悟を待ってる人がたくさんいる…」
「そんなのどうだって良いよ!こんな状態のオマエを放って行けるわけないだろ!!」
「悟が行けば…助けられる命がたくさんある…」
「だから何だ、僕はオマエさえ無事でいてくれるならそれでいい!逆に言えば僕はオマエが無事でいてくれなきゃこの世界にいる意味なんてないんだよっ」