第29章 五条家当主
「入れ」
私を見ていた悟は、そのまま襖へと視線を移すと「失礼致します」という声と共に戸が開いていく。
開いた襖の側には60代くらいの女性が立っており、深々と頭を下げた後部屋の中へと入ってきた。
「風呂に入れて着替えさせて」
その女性へ悟はそう言うと、女性はゆっくりと頭を上げてニコリと微笑む。
うわぁ、なんて優しそうな人なんだろう。
「リン、僕は用が終わるまで1時間くらいかかるからこの部屋で待ってて。ここなら安全だから昼寝でもしてな」
「うん、わかった」
悟は私の頬へそっと手を添えると、スルリと親指でなぞるようにして触れたあと優しく瞳を細めて微笑む。
「じゃあ良い子で待っててね」
「…子供扱い」
「あんな無茶をするリンちゃんには、子供扱いしたくもなるよ」
「ごめんてば…」
悟はそう言って唇を尖らせる私を再びニコニコと見下ろすと「じゃあ行ってくるね」と頭へぽんぽんと優しく手を乗せたあと、部屋を早々と出ていった。
部屋に残されたのは、私と優しそうな女性の二人。
そんな女性を見つめていると、パチっと瞳が合った瞬間優しく笑顔を向けられ思わず私もつられてニッコリと笑う。
「お風呂はこちらです、ご案内いたします」
「あ、はい!ありがとうございます」
そう言えば私の服…血だらけで酷いや、腕周りは破れてボロボロだし。これは買い替えだなぁ
悟の着物に血付かなかったかな…大丈夫かな。きっと悟の着てた着物高いだろうし…汚していたら申し訳なさすぎる。