第28章 誘拐
そんな悟の言葉に…そんな悟の辛そうな表情に…自分のしてしまった事の重大さに気がつく。
他人の命には敏感なくせに、人を助けるためならば自分の命はこうも簡単に捨てられるんだという事に自分自信驚いた。
だけどそれと同時に…私が死ぬと悲しむ人がいるんだという事も自覚した。
私を大切に思ってくれている人。
私を愛してくれている悟が…
私が傷付く事によって、もっともっと傷付いてしまうんだという事。
そんな事分かっていたはずなのに…高専の時に…七海君と付き合っていた時から…痛いほど感じていてはずなのに。
悟が傷付くのは嫌なのに、自分の事を甘く考えていた自分に嫌気がさした。
「ごめん…悟…ごめんね」
抱き上げられ悟の首へ回していた腕の力をギュッと込めると、悟は再び眉間にシワを寄せたまま私を切な気に見下ろす。
「もっと自分を大切にして、もっと僕を頼って、もっと自分の存在の大きさを自覚してよ」
「うん…私はいつも考えが足りない…もっと気を付ける…」
高専の時に、傑に言われた「リンは頭よりも先に身体が動くタイプだよね」という言葉を思い出す。
もう大人なんだから…一級術師なんだから…もっと理性的にならないといけないはずなのに…
俯く私を困ったように見つめた悟は、溢れるような溜息を吐き出し眉間の皺を元に戻すと。
「いや、元わと言えば僕が悪いんだけどさ。ただリンにも自分がどれだけ無茶な事をしているか分かって欲しかった。さっきは僕も言い方がキツかったよね、ごめん」