第28章 誘拐
悟は本当に私に甘いな…悟が言っていることは何も間違っていないのに。
帳の外に出た先には、車の前で伊地知君が待機していて、私と悟を見つけた瞬間焦ったような表情をして駆け寄る。
「五条さん!影千佳さん!ご無事ですか!」
そんな伊地知君へ悟は「問題ない」とやはりいつもよりも冷静に話すと、私を抱いたまま後部座へと乗り込んだ。
バックミラー越しには伊地知君がこちらを心配そうにチラチラと確認しているのが分かる。
「傷、治すよ」
悟の静かな声が車内に響き渡り、私の上腕から流れている血を止めるように悟が反転術式をかけた。
やっぱり不思議な感覚だ…
何で悟は自身以外では私のみに反転術式が使えるんだろうか。
傷口はゆっくりと塞がっていき、垂れ流されていた出血はピタリと止まる。
「ありがとう」
「いいえ、疲れたでしょ。僕に寄りかかって良いから休みな」
「…うん」
未だ悟の膝の上に座ったまま、悟は私の頭をくいっと引き寄せ自分の胸元へと寄りかからせると、私の背中に腕を回し優しく抱き寄せた。
「伊地知、本家まで頼むよ」
悟の反転術式が終わるのを待っていた伊地知君が「はい、了解です」と声を出し車は滑らかに発進する。
「…本家?」
「少し処理しないといけない事がある。だけどリンを置いては行きたくないからね。一緒に来てもらうよ」
処理しないといけない事とは…多分さっきまで起きていた出来事のことだろう。
悟は自分が甘かったと言っていた…だけど悟は学生時代から自分へ害をなすモノには容赦が無いことを知っている。
だけどそんな悟が甘く見られていたなんて…そう考えると、一体今から何が起きるのか想像するだけでも恐ろしい。
悟は絶対に…今回の主犯を許さないだろう…さきほどの女性にも言っていた。僕に何かされるよりも呪霊に殺された方がマシだと。
本当にそうなのかもしれない…五条悟という男は、きっとこの世で1番怒らせてはいけない人物なのかもしれない。