第28章 誘拐
「せっかくリンが救おうとした命だ。それに免じて無かった事にしてやろうと思ったのに…お前、殺されたいの?」
その声は聞いた事もないほど低く、そして無機質でまるで何も写さないような恐ろしい表情で女性を見下ろした。
そんな悟の雰囲気に、女性は言葉を失ったのか真っ青な顔をして涙を流しガタガタと震え出す。
「悟…だけど彼女は…」
「あぁ、さっきの話なら聞いてたよ。オマエ僕が好きなんだってね。だけど残念だったなぁ、僕はリン以外微塵も興味ないし好きになるとかあり得ない。特にオマエみたいな女は視界にも入れなくないほど大嫌いだ、反吐が出る。しかもこの僕を怒らせたんだ、無事でいられると思うなよ」
いつもの綺麗な碧色の瞳は小さく細められ、ワザとらしく口角を上げた口はそんな言葉を吐き出すと女性を軽蔑するような視線で見下ろし再び歩き始めた。
後ろの方では女性がすすり泣く声が聞こえる。
だけどこれ以上、私が彼女や悟に口を出す事は出来なかった。何故ならそれが間違いだって分かっているからだ。
悟はしばらく黙ったまま歩みを進めながら帳を解きそこから出ると、やっと私へと視線を向けてくれる。
「ねぇリン、僕君にも怒ってるんだけど」
「え…あ…その…」
私を見下ろす悟は、サングラスの隙間から私を真剣な表情で見つめている。いつものふざけたような表情じゃない…いつものニコニコとした笑顔じゃない…
冷静な声でしばらく無言のまま見下ろされ…私はごくりと唾を飲み込んだ。
悟…本気で怒ってる。