第28章 誘拐
思わずそんな見たこともない彼女の光景に、食い入るようにして見つめていると、自分よりも数倍はガタイの良い斧を持った男が倒れた瞬間刀を下へと下ろした。
そして彼女が向かう先には…リンを睨み付けるようにして佇んでいる一人の女。
あの女、また性懲りも無く僕達の前に現れたのか。
キレすぎているのか、多分リンはここに立っている僕に気が付いていない。
ただひたすらに、あの女を冷静な表情で見つめながら一歩一歩足を進めていくと、女の目の前で立ち止まった。
「私の勝ちです」
いつもの可愛らしく明るい声よりも、少し低く凛とした声。
女はそんなリンの姿にワナワナと震えるようにして手を握り締めると、彼女を強く睨みつけた。
「貴方は悟様に相応しくない!五条家に足を踏み入れて良い存在なんかじゃない!悟様は私と結婚して後継者を作るの!私と悟様は生まれる前からそうなる運命だった!私は彼の妻になるようずっと言い聞かされてきた!そして悟様の妻になるために今日まで過ごしてきた!それなのに…あんたがっあんたが現れたせいで!悟様は女性にあんな表情を見せるような人じゃなかったのにッ!!」
そんな女の態度にもリンは冷静な表情を変える事なく前を見つめると、ゆっくりと口を開いた。
「あなた、悟の事が好きなのね」
「は…?あなた…何言って」
そんなリンの言葉に女は驚いたような表情を見せる。
いや、それは僕もだけど。アイツが僕を好き?あんなプライドの塊みたいな女が?
「本当は悟のことが、好きで好きで仕方ないんでしょ」