第28章 誘拐
「やっと思い出して頂けましたか」
以前高専時代に一度悟の家へ行った時…廊下ですれ違った人だ。
確か悟の婚約者だって言ってたけど…悟は違うって言ってたんだっけ。
そんな人が何で私に…と思いながらも間違いなくこれは悟関係で私に用があるんだということは確かだ。
「単刀直入に言います、悟様と別れて下さい」
やっぱり…悟の事か…
「何故ですか、あなたは婚約者じゃないと聞きました」
そうだ、婚約者じゃないのなら、この人に別れろと言われる義理はない。それにそれはこの人が決める事じゃなくて、悟が決める事だ。
「貴方は何も分かっていません、悟様は五条家現当主なのですよ。貴方のような非術師の家系に生まれた人間が近づいて良いお方ではないんです」
まるでゴミでも見るかのような表情で私を見下ろす彼女は、きっと呪術界の中で良いとこの家系に生まれた選ばれ者なのだろう。
でも、だから何だって言うのだ…
だからって何故悟と離れなければいけないんだ。
確かに…呪術界にとって五条家はとても大切で中心となる存在だ。彼らなしでは呪術界は回らないだろう。
だから悟に婚約者がいても、決められた人と将来を誓わないといけない事だって本当は理解できる。
そうする事が、呪術界にとっても五条家にとっても良いのかもしれない。
だけどだったら悟の気持ちは…?
悟の想いは…?
五条家に生まれ呪術師最強なら自分の気持ちを押し殺しても家の言うことを聞かないといけないの…?
いや、悟はそんな事望んでいない。
そして絶対に、彼は誰かの言いなりになんてならない。
自分の願いも叶え、そして呪術界をも支える…悟はきっとそんな道を選ぶ。
だから私が今するべきことは…
絶対に悟を手放さないという事だ。
悟の気持ちを絶対に守るということだ。