第16章 酷い夜だからこそ
もう今日は何もしたくない…
額に手を置き目をつぶっていると、ブーブーとポケットに入れていたスマホが鳴る。
まさか…追加任務じゃないよね…
そう思いながら携帯を取り出すと、画面に表示される名前を見てホッと安心のため息を落とす。
「もしもし、どうしたの?」
通話ボタンを押しそう答えれば“おつかれサマンサ〜”なんてあちら側から呑気な声が聞こえる。
「お疲れ様」
“リンさ、もう家でしょ?”
「そうだよ、さすがにもう夜中の一時だしね」
背もたれにもたれて座っていた身体を起こし、冷蔵庫へと向かうとミネラルウォータを取り出した。
“僕あと一時間くらいで仕事終わるんだけどさ、これから鍋パなんてどぉ?昨日美味いカニが届いてさ”
悟…まだ仕事してたんだ。
悟は本当高専時代から忙しいんだな。貴重な特級呪術師だからって、さすがに上も悟にばかり仕事を任せすぎなんじゃ…いくら悟が強いからって、こんなんじゃいつか倒れてしまわないか心配だ。
というか…それよりも…
「鍋パ?こんな時間に…?一時間後って夜中の二時だよ?」
こんな真夜中に鍋パしようなんて元気いっぱいに言ってくる悟に、少し笑いながら言葉を返す。
“僕いますっごいカニ鍋食べたいんだよね!だから付き合ってよーリン以外鍋パどころか電話さえ誰も出てくれないんだよ!酷くない?だからお願いー”
まぁこんな時間に悟からの電話なんで、イタズラかふざけた無茶振りなんじゃないかと思って、そりゃあきっと皆んな出ないよね。
私は少し考えたあと。まぁ、いいか…きっと一人で家にいても眠れず自分の無力さに嫌気が差すだけだ。それなら悟と鍋パしていた方が気も楽だろう。
「分かった、じゃあ待ってるね」
“やったぁー!じゃあ速攻で終わらせて帰るから待っててね〜”