第16章 酷い夜だからこそ
日本に帰ってきて一ヶ月が経った。
私は玄関に刀の入った袋を立てかけると、そのままリビングへと向かう。
今日の任務は酷かった。
廃病院に肝試しで行ってしまった中学生三人の行方不明捜索だった。行方不明になってから三日たっていたらしい、呪霊は問題なく祓えたが、私が行った時にはすでに手遅れで…無残な子供の死体を見つけた。
着ていた黒の上着をソファーへと脱ぎ捨てると、そのまま乱暴に腰掛ける。
「……はぁ」
呪術師になってから8年も経つと言うのに…未だに人の死に慣れない。特に子供の死には…
呪術師にはある程度の非道さとイカレ具合が必要だ。いつか夜蛾先生に言われた。
本当は呪術師として人の死に感情を持ち込んだりしてはいけないのかもしれない。もっと何事も無かったかのようにいないといけないのかもしれない。
だってそうでもしてないと…おかしくなってしまいそうだから。
呪いによって人が死ぬたび、死体を見下ろすたび…自分を保てなくなってしまうから。
だけどそれに慣れてしまったら、自分自身人間でなくなってしまいそうで……
だってきっと呪霊がいなくなる事なんて、一生あるはずがないだろう。人に幸せという感情がある限り…負の感情も生まれてしまうのだから。
私達が助けられる人数には限界がある。
全ての人を助けられるわけじゃない。
どんなに頑張ろうが、努力しようが…日々生み出されて行く呪霊を全て消し去る事なんて…出来ないんだ。