第10章 雪の夜
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眠いはずなのに眠れない。
そんなの当然だ、好きな女が自分の部屋のベッドで寝ているんだから。
ソファーへと寝転び目を閉じてしばらくした頃、スースーとベッドの方から規則正しい小さな寝息が聞こえてくる。
寝るの早。
俺はゆっくり立ち上がると、ベッドで眠っているリンの寝顔を見下ろした。
「…人の気も知らないで、呑気に寝やがって」
呼吸とともに上下させる肩はとても小さくて…丸まって毛布を抱きしめるようにして眠るその姿はまるで小動物だ。
つーか俺の布団抱きしめて寝てるとか…ヤバイだろ普通に。可愛いすぎかよ…
自分の頭をガシガシとかき、理性を抑えるようにしてため息を吐き出す。
安心しきって眠るリンの目元は、うっすらと赤く腫れていて。俺はそこへそっと人差し指の背で触れた。
あの日の教室での、コイツの表情を思い出す。
駅で俺達を見送っていたときも。
瞳に涙をめいいっぱい溜め、溢れないようにと必死に我慢していた表情もだ。
リンの明るく無邪気な笑顔が好きだ。
いつも元気で楽しそうなリンが好きだ。
だからあの瞬間のリンの変化には、もちろんすぐに気がついた。
なのに31日は面倒な御三家の集まりがあって、行かないわけにはいかなかった。本当はあの日一緒に連れて帰りたかったが、俺のいない五条家にリンを一人置いておけるほどここは安全な場所じゃない。まるで腐ったゴミだめのような場所だ。