第1章 赤ずきん
「…場地……もういいだろ…?元に戻れよ」
「ククク……ハハ…」
血を吐きつつもよろよろと立ち上がり不気味に笑うだけで、場地が元に戻る様子はありません。キックで完全に倒すしか策はないのでしょうか。
「マイキー君…やるんすか!?」
マイキーが再び攻撃体勢に入ったのを察した千冬が、少し慌てて呼び掛けます。ですがマイキーはもう腹をくくっていました。幼なじみを倒すため、覚悟を決めます。
すると、ふと場地が笑うのをやめ、その顔が徐々に辛そうな苦悶の表情に変わります。痛みがあるのか両手で頭をかかえ込み、苦しそうに呻いた後、場地の声がしました。
「…お前の蹴りで目ェ覚めたわ」
それはまるで、場地の自我が必死に狼の支配に逆らっているようでした。
「気にすんなよ、マイキー……オレは…お前にはやられねぇよ…」
そう言うと側にあった武道のナイフを掴み、自ら腹を刺したのです。
「場地っ…!!」
全員が、目の前のあまりの光景に続く言葉を失いました。その直後、マイキーは場地の中から狼の邪悪な気配が消滅していくのを感じました。
そして、怪物から人の姿に戻った場地がその場にばったりと倒れ込みます。
「…場地さん!!」
千冬が駆け寄り、場地をかかえ込んで容態を確認します。不思議なことに傷口はすっかり消えていました。
「…傷がない…なんで…?」
信じられない面持ちで千冬が彼の体を抱き起こすと、場地はぽつぽつと喋り出しました。
「千冬ぅ…ペヤング、食いてぇな…」
「場地さん!生きてる…っ、良かった…!」
涙を流して喜ぶ千冬。その様子を見ていたマイキーと武道も、場地が元に戻ったことに心底安堵し微笑み合いました。
その後万作家の庭で、皆でパーティーを開きました。
場地が、幼い頃狼にとりつかれたこと、マイキーを食べるタイミングを狙っていたことを明かします。