第17章 帰還
旅行から戻るまで待とうかとも思ったけれど、二人の顔を見たら何だか泣いてしまいそうで、会わないまま永遠のサヨナラもありかなと思い直し、お菓子とお別れの手紙を入れた紙袋をドアノブにかけて去ることにした。
「さよならスミレさん、ボブ。ありがとう」
ひとり部屋でぽつりと呟く。そうしてクローゼットの扉を開いたその時、ドンドンドンと玄関のドアを叩く音がした。
「神坂ちゃんアロハー! たっだいま」
「ハロージョー! ビデオノオミヤゲアルヨ。ムシュウセイ、アンゼン、ナンカイモヌケル!」
鍵はかけていなくてガチャっとドアが開く。慌ててクローゼットの扉を閉じて二人の方に顔を向ける。
「あ……えっと、お帰りなさい」
「あら、なんか部屋の中、閑散としてない?」
「実は、引越しっていうか旅立つことになって」
手紙にも書いておいたが、遠い町でジョーと暮らす事になったと、もうこの場所に戻る事はないと簡単に説明した。
「そっか。寂しくなるね」
「突然のことでごめんなさい」
「ううん、いいよ。幸せな旅立ちなんだからさ。ドアノブにかかってた紙袋は神坂ちゃんからだったのね。お菓子は見たんだけど手紙まで読んでなくて、こっちこそ悪かったね」
「いえ、最後に会えてよかったです。ジョーは一足先に旅立ってしまったから、彼の分も私からお礼言っておきます。お世話になりました」
「うん…………もう、行くの?」
いつも声高なスミレさんの声が、急にしっとりとしたアルトのトーンに変わった。彼女より少し後ろに立つボブの位置は変わらない。