第17章 帰還
さて、残りは私だ。
大きな深呼吸をしてもう一度部屋を見渡す。少しだけ後ろ髪を引かれるような複雑な気持ちだ。それなりに思い出がこの部屋には詰まっていた。
五条先生と軽く揉めたナナミングッズや呪術関連のコレクション。それらはすべて0円取引で譲渡した。
家具や家財は後日、業者が入って処分されることになっている。アパートの解約手続きも問題なし。
職場には辞表を出してお世話になった方々にお礼をした。お団子屋のお婆ちゃんには、二日前にジョーと一緒に行って結婚するからここを離れると伝えた。しわくちゃのお顔して嬉しそうにしてた。
もう何も思い残すことはない。……いや、たった一つだけ心残りがあった。一番挨拶をしたかったスミレさんとボブに、お別れを言えてなかった。
彼女たちは羂索が私に記憶を植えつけた偽物の知人ではない。実際に私が親しくなった隣人で、なんだかんだとお節介を焼かれながらも、いつも可愛がってもらっていた。
ジョーと別の土地で暮らす事になったと、菓子詰めを持って何度かお隣を訪れたのだけど、いつ行ってもいなくて、スミレさんにLINEしたらボブとハワイでラブラブ旅行中だと言う。