第17章 帰還
もし悟のことも自分の生い立ちも、硝子さんや楽巌寺先生、五条の家族のことも全部忘れてしまったらどうしよう。
そう思うと怖くて体が強張る。身を縮こませていると、後ろから悟がそっと肩に触れた。
「大丈夫だよ」
いつもにも増して優しい声色が響く。悟の方に顔を向けると彼は穏やかでいて強い意志を感じさせる表情をしていた。
「前に言ったよね? たとえ君が記憶を失って真っ新な状態になっても、何度でも君を好きになるって」
「うん……でも」
長い婚約期間を経てプロポーズしてようやく結婚に至ろうとしている相手とまた一からのスタートなんて、考えただけでやるせない。
こんなの誰だって面倒で煩わしくて何より怖い。本当にもう一度結ばれるのかって。
でも悟は「僕らは運命でしょ」ってあっけらかんと言う。
「必ず万愛を口説き落とすよ。今以上に僕を好きにしてみせる」
力強い青い瞳が真っ直ぐ私を見つめていた。胸の奥がじわっと熱くなって、鼻の奥がツンとする。