第4章 隠し味
いただきますって改めて手を合わせ、カレーを口に運ぶ。
あぐっと一口、口に入れると、頬っぺた落ちそうなくらい美味だった。同じカレーのルーで作ったとは思えない。
「おいしーい!!」
「大袈裟じゃない?」
「ううん、最高。市販のルーでこんなにコク出ないでしょ。隠し味は何?」
「それは企業秘密ってやつ」
「えー教えて」
この隠し味は仕事で使えるかもしれないなんて打算が働く。うまくいけばカレーの商品開発で給料アップが狙えるかも!
「ビールを入れたとか?」
「いや違う」
「なんだろう」
五条先生の回答に想像を膨らませる。鷄ガラ? チョコを入れたとか? しつこく問いただすと「ありきたりなもんだよ」って言う。
「ギブです。詰みです。教えてください」
「料理の隠し味って言ったら、これしかないでしょ」
「なになに?」
「愛情だよ」
「……ぁあ、なるほど愛情ね……って、絶対違うでしょ。もぉーちゃんと教えて」
ククって五条先生の笑みが溢れる。これは冗談だ。冗談だから笑える。
私たちの間に愛情なんて存在しないし、この先も生まれたりしない。二次元と三次元の間に男女の愛情なんて起きるわけがない。
五条先生は近くで見れば見るほどカッコいいし、思いがけず優しい時があって心が潤うけれど、これはきっと憧れみたいな目の保養みたいなもの……。