第16章 愛ほど歪んだ呪いはないよ
獄門疆から届いている赤い光に玉が照らされると、濡羽色が更に艶々と輝き出した。
悟に貸してと言われて、玉を手のひらに乗せる。悟はクローゼット内に広がる黒い結界の渦に玉を投げ入れるかのように腕を下から振り上げた。
「待って、警戒した方がいいんじゃ」
何かの罠かもしれないと思いそう言ったけど、悟は躊躇なくぽーんっとその玉を結界の内部に放り込んだ。
玉がみるみる吸い込まれていく……。そして完全に飲み込まれた直後、驚くことに獄門疆へと通ずる道のすぐ横に、新たな結界が円状に広がった。
「万愛の帰り道だね」
「嘘。ここから私が元の世界に戻れるってこと? どうして」
「言ったでしょ、アイツが君を見る目はマジだったって」
「……なにそれ。意味わかんない」
しばしの間、これまでのオーナーの行動の理由を考え込んだ。
――そうか、あの時……。
思い出した。私は羂索との戦闘で追い込まれた時、術式の開示を行なった。効果を底上げしつつ同時に拡張術式を用いた。
私の愛の術式の掌印は両手で作るデルタの形。手を向かい合わせて指先をくっつけて三角形を作る。
互いの手を支え合うような象形だが、別の側面から見ると、この形は三つの頂点を持つ。
一つは私が想い人を愛する点。
一つは想い人が私を愛する点。
そしてもう一つの点……それが拡張術式だ。