第16章 愛ほど歪んだ呪いはないよ
情けない思いが溢れ出て、悟の後ろから思いを口にした。
「最初から私のこと騙してたんですか?」
「なかなか落ちなくてもう少しだと思ったんだがね」
「そうですか……私は楽しさを感じる瞬間もあったので」
「はは、思ってもないことを」
たとえ偽物の愛情だったとしても、五条先生がいなくなってぽっかり空いてしまった心の空洞をわずかながらでも埋めてくれたように思う。
ひと握りの幸せがそこにあったように思う。それは勘違いだったかと、自嘲気味に笑うとオーナーは神妙な面持ちで私をじいっと見つめてきた。
「あーあ、知らないうちに千愛にも惚れてた? 僕と同じじゃん」
「何をっ、くだらない」
「ひきつってるよ、そのキタナイ面」
悟はさらに苛立ちを募らせてオーナーに詰め寄った。後退りしたところにぐいっと踏み込む。今にも胸ぐらをつかみそうな勢いだ。
「分かってるよな。女に手ぇ出されてこれ以上ないくらい僕がキレてんの」
「君は獄門疆に封印されてるはずだろ」
「今も封印されてんじゃない」
「なぜここにいる」
「いい加減、口の利き方覚えろよ」
悟の威圧感にオーナー……ではなく羂索がみるみる恐怖に支配されていくのが分かった。ビリビリとした空気が私にまで伝わってくる。
一触即発だ。