第16章 愛ほど歪んだ呪いはないよ
「ちょっ、ジョー!」
オーナーの手首が変形しそうで、慌てて私は悟の二の腕に手を添えてぐいっと手前に引き寄せた。
「ね、マジになってないよね? 後でちゃんと説明するけど、この人はアパートのオーナー。訳あってジョーがいなくなった後、少し親しくなった。それだけ」
「オーナー? はっ、そんな肩書きつけて千愛に近付こうとする時点で、男としてアウトだね」
「肩書き、つける?」
言ってる意味がよくわからなくて、オーナーの方に視線を移すと、彼は一瞬、眉根を寄せたが、すぐに元に戻り、いつもと同じような薄い笑みを浮かべた。
「神坂さん、付き合ってる人はいなかったんじゃないんですか?」
「えぇそうなんですけど。実は私ずっと記憶障害を患っていて……。この人と再会して付き合ってた事を思い出したんです」
「なっ……思いっ、出した!?」
素っ頓狂な声を出すオーナーに多少違和感を感じながらも話を続ける。
「はい。連絡せずに勝手に復縁してしまって申し訳ありません。ジョーは私の婚約者だったんです」
「うぐっ」
急に血の気が引いたようにオーナーが真っ青になった。
表情はひどく強張っている。こんな顔を見たのは初めてだ。
オーナーの眼差しはゆっくりと悟に向けられた。
「まさか、君は……」
「自己紹介、いらないでしょ」
悟がドレッドヘアーのウィッグを外す。何が何だか訳がわからない。二人は初対面ではないのだろうか?