第4章 隠し味
結局このビルの中では五条先生に合う洋服は見つからず、外に出た。
朝の天気予報どおり晴れてはいるけど北風が冷たい。時々疾風がビルのすき間からピューッと吹き抜けて頬を刺す。
コートの前開きを重ね合わせるようにして街路を歩いた。急ぎ足でヒールでぐるぐるフロアを歩き回ったせいか、つま先もじんじん痛い。
「はぁーもうやだ。五条先生っていつもどこで服買ってんだろ」
ため息混じりにドカッとベンチに腰を降ろした。まぁ、おそらく海外のハイブランドだ。百貨店でオーダーメイドしてるのかもしれない。
伊地知さんがクリーニングに出した五条先生のワイシャツは確か25万だった。
そんなの機械による大量生産なわけない。手縫いだ、手縫い! 首から胸から胴から全て採寸して、職人さんが針と糸を持って縫製しているに違いない。
五条ワイシャツのために綿から栽培してるかも。専用の蚕飼ってるかも。オーガニックのクワの葉とか食べさせて。……怖っ!