第11章 硝子
僕は少し間をいれた。硝子との付き合いは12年になる。お互いの性格や思考パターンは熟知しているつもりだ。
表立って口に出すことはないけど、僕が硝子に一定の信頼を置いていることも分かっているだろう。だが僕はあえて口にした。
「硝子の力を借りたい。あまり猶予がなくて焦ってる」
こんな風に私情を交えて頼みごとをしたのは初めてかもしれない。
硝子は僕の態度に少し驚きを見せたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「愛してるんだな」
「言うに及ばずでしょ。今も彼女はひとり僕を待ってんだよ」
「早く行ってやれ。協力するよ」
硝子は微笑んで僕の肩にトンと手を置いてから、デスクの上に万愛の特異体質が記されたノートを出してきた。