第11章 硝子
止めた足を再び動かして硝子の部屋へと進む。シェルチェアーに座る見慣れた後ろ姿と長い髪が視界に入った。
テーブルに置かれた灰皿にはいくつも煙草がすりつけられていて、チェアに腰掛けた人物がふわふわっとドーナツ型の紫煙を2つ浮かび上がらせた。
「禁煙中じゃなかった?」
後ろから声をかけるとガクッと背もたれが前後に揺れた。それからゆっくりと椅子が回転してこちらを向く。
「……は?」
いつも冷静な硝子も、さすがに目を丸くしているようだ。
「五条……?」
「ニコチン増やさないとやってられないって顔してるね」
硝子の指に挟んでいた煙草の灰がぽろっと落ちそうになり、慌てて彼女は灰皿に煙草を置いた。そして僕の顔をまじまじと見つめる。