第3章 下着
五条先生は軽く言ったけど、複雑そうな面持ちに私には見えた。
生まれながらの天才呪術師である五条先生の手の内にはいつも呪力があってそれが見えていたのだろう。原子レベルに働きかけるという無下限呪術を繊細にコントロールしているのが六眼だ。
それは、他人の術式も見る事が出来、高解像度のサーモグラフィーのように見えるって公式ファンブックには書いてあった。
呪力のない建造物のようなものでも、その他の呪力の流れや残滓によって認識出来るから目隠ししてても分かるって。
五条先生にとって目は視覚って言うより呪力による物体の識別っていう役割の方が大きいのかもしれない。
例えばコウモリやイルカが、超音波を用いて前後左右、360度、距離や密集度を感知するエコロケーションの能力を有するように。
私なんかが想像もつかない異能のセンサーなんだろう。
五条先生は子供の時、懸賞金を掛けられて、命を狙われていたわけだし、五感以上に六眼を頼りに身を守って生きてきたのだとしたら、今の状態は手足をもぎ取られるのと同じくらいの喪失感かもしれない。
しかもこんな異世界に飛ばされてだ。いくら五条先生といえでも不安がゼロって事はないだろう。
何か言葉をかけたいけど、大丈夫ですよなんて軽々しい言葉は私には言えなかった。六眼が再び働くようになる保証なんてないのだから。