第9章 さよなら五条先生
五条先生の片足が結界に入り込むと、吸引されるように五条先生は潜り込んでいった。
何を思ったか先生がパシっと私の腕を掴む。まるで私のことを連れて行こうとするみたいに。
菜の花畑で引っ張って歩いてくれたお兄ちゃんのことをなぜか思い出す。私を導いてくれるような手。
最後に五条先生がこう言った。
「千愛、僕を信じてて。必ず君を助ける。その記憶障害も何もかも」
そのまま五条先生は、深い闇に飲まれるみたいに沈み込んでいき、私の腕と先生の手はぎりぎりまで繋がっていたけど、結界の境目で当然私は弾かれて、先生の手だけが闇の中へと落ちていった。
黒い空間がしぼんでいく。どんどん小さくなって閉じられていく。
それが手のひらサイズになったとき、やっぱり言おうと私は思った。