第9章 さよなら五条先生
「僕にはね、特別な子がいるんだ。恋愛しないって言ったのは、彼女を裏切れないから。渋谷事変に行く直前まで一緒にいたって話、したよね? ハロウィンの日からずっと待たせてんの」
ぎゅっと掴まれた心臓がトマトみたいにつぶれそうだった。
これは好きな人の話? さっきの私へのキスは一体なんだったの?
誰も入りこめない彼女への愛情を五条先生から感じる。
頭の中が混乱する中、そうか……とひとつの答えが導き出された。五条先生は私のことを振ろうとしてるんだ。後腐れのないように。
「ストップ。すべて納得した。これ以上言わなくていい」
「まだ続きがあんだよ」
「もうわかった。私の事、特別な子って言ったのはその彼女に被せてたんでしょ? ほくろが同じだったから。優しくしたのも手を繋いだのも抱きしめたのも私は彼女の代役で、その子に思いを馳せてたんでしょ」
「違うよ千愛。……僕らの間に確かなものはあったよね。今も感じてるよね」
胸がぎしぎしと軋んだ。心にいくつもの棘が刺さって傷ついてる。