第9章 さよなら五条先生
初めて五条先生に陽の光を感じたのは、先生の着替えを買って帰った帰り道だ。
アパートの部屋から漏れ出ていた小さな光になぜか温かみがあって、それは闇夜を照らす壮大な明かりの様にさえ感じた。
あの日から変わらない包まれているような安心感。すとんと気持ちが落ちついてくる。
私が普通の状態に戻ったのを見て彼は隣に腰掛けた。
「ねえ千愛、もし今、恋人が側にいたらって考えたことはある?」
「恋人か……どうかな」
「もし君が記憶を無くしたとしても、何度でもその恋人と思い出を積み重ねればいいんじゃない? どれだけでも何回でも君は愛されるよ」
私は少しだけ微笑んでみせた。それは夢物語だ。