第9章 さよなら五条先生
「そんなにいけなかった?……先生が聞くからじゃん。私のこと知りたいって、興味があるっていうから……だから私……」
膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめる。乱暴に体を捕まれてホテルに引きずりこまれそうになったことを思い出した。
こんな自分が情けなくて体が震えて手がぶるぶると揺れ始める。
「わかった、もういいから」
「私空っぽなの。自分がわからないの。ごめんなさい」
そう言うと五条先生はこれまでにないほどぎゅうっと腕に力をこめて私を覆うようにして抱きしめた。
後ろ髪に入り込んだ指にも力を感じる。ぐっと胸元に頭を引き寄せられる。
「責めるつもりじゃなかった。ごめん、ただ君が心配でさ。無理しないでよ、頼むから」
また少しだけ涙を流した私に、五条先生は世話を焼いてくれた。好きだと自覚したからなのか、最近は彼が側にいるだけで温かい。