第9章 さよなら五条先生
冷たい水が身体中に染み渡ると、頭がはっきりとしてきた。空になったコップを先生に手渡す。
「すっかり迷惑かけちゃった。こんなみっともない所を五条先生に見られて恥ずかしい」
「気にしなくていいよ。無事でよかった」
そんな風に言う五条先生を見て、私は決断した。思い切って全てを話そうと。五条先生なら何もかも受け入れてくれそうな気がした。
「先生、驚かないで聞いて欲しいんだけど。私ね、過去の記憶があいまいなの。自分が何者なのかよくわからない。本当の私の持病は頭痛や立ちくらみなんかじゃなく、記憶障害」
「記憶障害……か。もう少しその話、聞かせてくれる?」
「うん」
この話をしたらもっと仰天するかと思っていたけど、五条先生は意外にも普段と変わらない様子でむしろ納得している風だった。