第9章 さよなら五条先生
「家族はどうしてんの? 遠くにいるって言ったよね」
「あ、うん……」
ココアをテーブルに置いた。指先で髪の毛をくるくると絡めながら思い出せるよう考えてみる。家族……家族。
「……っと。そう。母親がいる。それで兄がいる!」
「えっ、兄貴がいんの?」
「うん。小さい頃、隠れんぼとかして遊んだ。菜の花畑で」
これは渋谷デートの途中で思い出した幼少期の記憶だ。ついこの間フラッシュバックしてきた思い出だからちゃんと話せる。
この持病には思い出すという現象はあまりないのだけど、あの時は、頭が割れそうに痛くてこめかみのズキズキも激しく、立ちくらみも酷かったから、どこか回路が混乱したのかもしれない。