第9章 さよなら五条先生
その質問なら答えられると、推しへの愛を今こそ熱く語ろうと、勢いよく口を開けた。……だけど驚いた事に、声を奪われたみたいに、そこから先の言葉が続かない。
頭の中が空っぽだ。渇いた口内からは、息すら出てこなくてゆっくりと口を閉じる。
ごくっと無理矢理唾を飲み込んで喉を潤し、もう一度口を開いた。
「秘密」
「えー、何それ!」
不満げな声をあげる五条先生に私は曖昧に笑った。どうして自分がナナミンを推しているのかはっきりわからないなんて、言えるわけがない。
これが私の抱えている持病の本当の怖さだ。頭痛や立ちくらみは予兆に過ぎず大した問題ではない。
五条先生にはこれを伝えていない。渋谷デートで激しい頭痛が起きた時にも言わなかった。
それは――記憶障害。