第8章 五条悟のひとりごと
◇
「ん……」
僕の腕の中で千愛が身じろぎをした。鼻先から彼女の甘い匂いがして僕はゆっくりと目を開ける。室内が薄暗いところを見るとまだ早朝なんだろう。
腕の中にいる彼女の柔らかな髪や肌から漂うお菓子みたいな香りは千愛の雰囲気にぴったりで、千愛をひと口かじったらバニラ味がするんじゃないかなんて思ったりする。
すぅすぅ寝息を立てて口を半開きにして眠る無防備な寝顔に思わず笑みがこぼれた。
僕じゃなかったらとっくに食われてるよ?
しばらくしてカーテンから差し込む朝日が千愛の顔を照らし始め、その眩しさで彼女は目を覚ましたようだ。
寝起きでまだ意識がはっきりしないのかぼんやりと瞬きを繰り返して、やがて自分の状況を把握したのか急に慌て出した。
「えっ!? なんで私ここに……ごめんなさい!」
「おはよう」
顔を真っ赤にして僕を見て、恥ずかしそうに布団の中に顔を潜らせていく。毎朝の事だ。
これは彼女の寝相がそうさせてるんだけど、日に日に僕の抱き枕みたいになっていく千愛が可愛くて、こんな風に目覚める朝をいつの間にか僕も心地よく感じていた。