第7章 急接近
✳︎
五条先生……。
春になって脱衣場の寒さは幾分ましになりました。
あれからナメクジは一度もお風呂場に現れていません。
「もう入ってくんなよーって僕が声をかけておいたからだいじょーぶ」って先生が言った言葉通り。
しばらくはこのおまじないが効くかな?
湯船に浸かっているとふと思うんです。あの時先生が私に言った、特別な子っていったいどう言う意味だったのかなって。
最後まで分からないままお別れしちゃったけど、聞いとけばよかったかな。
ううん、聞かない方がよかったよね。これでよかった。
先生……。
もしもう一度、お風呂場でナメクジに出くわしたら、私、引っ越そうかなと思ってる。怖くてもう一人じゃ住めないよ。
でも引越しちゃったら、五条先生とは本当にさよならだね。もう会えないよね。
ここにずっと住んでたら、またクローゼットから現れたりしない?
久しぶりーなんて言って手を挙げて。
馬鹿だよね。そんな事起きるわけないのにね。
あなたと私の未来が交わる事がないことは、最初から分かっていたのにどうかしてるよね。
いい加減、二次元 (あなた)とサヨナラしなきゃ……。
それともう一つ。今になってわかった事があるんだ。先生があの夜話してくれた"置いていかれる寂しさ"のこと。
一人は寂しいよ……。