第7章 急接近
「あったかい」
私がそう言うと五条先生は優しく笑った。そして袋を私がいる反対側の手に持つ。私も鞄を先生とは逆側の肩に乗せ替えた。
なぜそうしたのかはお互い分かってる。きっと同じ思いだ。
並んで歩き出すとその思いはすぐに近付いた。足並みが揃い、体が寄り、私たちの影法師がアスファルトの上で重なり合う。
私の右手の甲が五条先生の左手に当たると、彼はその手を包み込むようにして手を繋いできた。
熱を分け与えるようにぎゅうっと手が握られて、私も彼の手を握り返す。
「大きくてあったかいな。ありがと」
「どういたしまして。僕もあったかいしね」
顔を見合わせて自然と顔が綻ぶ。胸の奥までじんわりと温かな気持ちになる。
渋谷で手を差し出された時は、どうしても不自然さを感じて手を繋ぐことが出来なかった。
だけど今、私の右手は当然の事のように、五条先生の左手の中に収まっている。戸惑いや躊躇いはどこにもなかった。