第6章 デートの練習
どちらからともなく目が合って、私は今の思いを口にした。
「それぞれの傘で雨から身を守って歩くのもいいけど、一本の傘で雨を凌ぐのも悪くないね。こうやって二人で歩いてたら、雨に濡れても冷たくてもどうってことないって思えてくる」
「そーだなー」
曇天の空とは対照的な青い綺麗な瞳が私を映していた。
「いつの間に僕と傑は別々の傘で歩くようになったんだろうな」
ぽつりと彼が言葉を漏らした……。これはきっと彼の心の声だ。すごく自然で飾りも虚勢も感じない声。
五条先生がまだ雨の降り始めを感じていた頃、隣には夏油傑がいて、その頃のことを思い出したのかもしれない。
渋谷の公園ではそんなこと言わなかったけど、百鬼夜行が映画になっているのを巨大ビジョンで見た時、ほんの少しの後悔と後戻りが胸の内に湧き起こっていたのかもしれない。
「ジョー」
「ん?」
「もしこの世界が辛くなって、心が耐えきれなくなったら言ってね。その時は私がドーンと受け止めてあげる」
五条先生は少し驚いた風にしたけど、すぐにいつもの余裕たっぷりな人を頼ったりしなさそうな顔に戻った。
だけどその後私に言った「頼もしいね」って言葉に冷やかしはなかったと思う。