第6章 デートの練習
私は思った。これが彼が見せる背いっぱいの弱気なのかもしれないと。
いつもは術式で濡れることがない体が濡れて、雨の冷たさを感じるっていうほんの僅かな躊躇い、違和感、心の揺れ……。
私は腕をぐんと伸ばして、差した傘を五条先生の頭が入るくらいまで高く上げた。少し先にコンビニがあるから先生用の傘を買いに行くことも出来たけどそれをしなかった。
「一緒の傘でいい?」
「あぁ」
頷いた五条先生が傘の中に入る。「持つよ」って言うから取っ手を渡す。
小さな傘だから、中央に寄り添って濡れないようにくっついて歩く。買い物カゴの中にいた仲良しのマグカップみたいに。
だけど、どんなに寄っても五条先生の体の大きさとこの小さな折り畳み傘と私では濡れる。それも分かっていた。それでもこうして歩きたかった。
二人で一つの傘に入って「そこ水たまり危ない」なんて、普段なら無下限で気にもしないであろう障害物を私が教える。
先生が飛んで避けて「もぅ。急に離れるから濡れた」なんて私が文句を言うと「んじゃもっとピッタリくっついときな」ってぐいっと腰に手を回されて「きゃ」なんて可愛く声を出してみる。
戯れながらザァザァと降りしきる雨の路をまるで歌でも歌うように歩いた。靴も髪もびしょ濡れだ。