第6章 デートの練習
どんよりとした雲が空を覆う。ぽつんと腕に水の粒が落ちた。天気予報どおり夕方からは雨になりそうだ。
アパートはここからそれほど離れていないから、降り出す前に帰宅出来るだろう。
少し歩みを速めたけれど、ぽつりぽつりと降り出した雨は本降りになりつつあった。鞄の中に入れておいた折り畳み傘を取り出す。
私が傘を広げている間、五条先生は雲で覆われた空を見上げていた。
「雨、か……」
「うん、降ってきたね」
「こんな風に降り出すんだな。久しぶりに思い出したよ」
手のひらで雨を受け、まるで雨粒をひとつひとつ確かめているみたいだ。その整った顔にも少し水滴が付いている。
「濡れるよ。そんなとこに突っ立ってたら」
「変な感じなんだよね。いつもは無下限で雨は全く当たらないからさ」
複雑な表情をしてもう一度天を見上げた彼の頬からすうっと雨の雫が落ちた時、なぜかそれが一筋の涙に見えた。
泣いてるわけはないんだけど、胸がきゅうっと締め付けられる。